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薬草園歳時記(24)里芋 2023年1月


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 里芋の花に関しては以前、本歳時記「薬草園歳時記(12)里芋の芋と花と実と 2021年12月」で紹介した。今回は地下の芋の部分について述べる。里芋は東南アジア原産のタロイモ類の仲間で、サトイモ科の多年草球茎で、10月上旬に掘り上げる。里芋は伝統行事に用いられる場合が多く、とくに月見の供え物として芒(すすき)、団子とともに欠かすことができない。また、お正月のおせち料理にも欠かせない。

 歳時記で甘藷(さつまいも)は初秋の植物の季語で、薩摩薯、甘藷(かんしょ)、甘薯、藷などの傍題がある。馬鈴薯は初秋の季語である。歳時記で芋(いも)は里芋のことで三秋の植物の季語であり、里芋、親芋、子芋、八頭、芋の葉、芋畑、芋水車などの傍題がある。

 里芋は稲よりも早く、縄文時代に中国や南方から日本へ伝わったとされている。縄文時代には主食であったという説もある。稲作より歴史がある。黒潮の流れに沿って北上して伝わったという説がある。野生化した物があり、鳥栖自生芋(佐賀県鳥栖市)のほかに、藪芋、ドンガラ、弘法芋(長野県青木村)と呼ばれる。青木村の弘法芋群生地は長野県指定天然記念物である。地方独自の品種や特産があり、秋田県横手市山内地区の「山内いものこ」、岐阜県中津川市の旧加子母村に伝わる「西方いも」などがある。

 里芋の名は山に自生する自然薯、山芋に対して、里で栽培されることに由来する。子芋が多いことから子孫繁栄の食べ物とされ、正月や節句の料理には欠かせない。株の中心に親芋があり、子芋が分球して増え、孫芋が子芋からさらに分球する。里芋の産地は埼玉の川越や所沢地域、千葉の八街地域などである。福井県の大野在来や愛媛県の女早生なども粘質が強く煮崩れしにくいことから人気である。里芋を使った郷土料理は日本各地にある。がめ煮、筑前煮、芋煮、芋棒、きぬかつぎ、素揚げ、のっぺい汁など、呼び名からその味が思い出される。

里芋の産地
(独立行政法人農畜産業振興機構HP「月報 野菜情報-今月の野菜-さといも」より)
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/0801_yasai1.html

磐田市の海老芋。さまざまなサイズの芋が出荷される。

 静岡県では東部と西部で生産されている。旬の時期は9月から3月である。石川小芋の産地は掛川市大東、大須賀地区の砂地である。砂地で育つ芋は小ぶりで球形をしていて、白くきめ細かい肌を持っている。品とこくのある味が特徴である。また、磐田市では海老芋の栽培が盛んである。

 海老芋は、サトイモ科サトイモ属の根菜で、サトイモの品種のひとつである唐芋(とうのいも)を何度も土寄せをするなどして「海老」のように湾曲した形に栽培したものである。江戸時代、安永年間(1772~81年)、青蓮院宮(しょうれいいんのみや)が長崎から持ち帰った唐芋(とうのいも)を京都御所に仕える者に栽培させてできた大きく良質の芋が海老芋のはじまりとされる。栽培の際に何度も土を寄せる。「土寄せ」は親芋由来の茎と子芋由来の茎の間に土を入れる作業で、これを行わないと子芋が親芋から離れず、本来の海老芋のように湾曲した形にならない。栽培上重要なことは、施肥の量と時期である。海老芋は肥料障害を受けやすい。植え付け時の決定は土壌の水分状態を見て行い、植え付けは雨降直後の土が充分湿気を保っている時が良い。土が乾燥気味の時は、2週間前に施した肥料でも障害が出る場合があり、したがって乾燥しているときは、灌水する必要がある。灌水不可能な場合は、元肥を種芋の下に施さないで株間に施すように留意する。追肥を施す場合でも、細心の注意と工夫が必要で、例えば追肥を4回に分施するのも肥料障害回避のためである。その他の摘葉、摘茎があり、子芋の肥大に欠かせない作業のひとつである。親芋の茎葉を除くことによって、子芋の葉に養分がまわり、これが子芋の肥大に好影響を及ぼす。

 海老芋は、肉質のキメが細かいので煮込んでも煮崩れを起こすことがない。煮物やおでんなどに適している。海老芋と里芋が決定的に違うのが子芋と孫芋である。サトイモ科の芋は、茎が肥大したもので、株の中心に大きな親芋があり、その親芋からでる腋芽(えきが、芽の一種)に相当するのが、子芋や孫芋である。里芋は大きく、「子芋と孫芋を食べるタイプ」、「親芋?子芋ともに食べるタイプ」、「親芋だけを食べるタイプ」、「葉柄を「ずいき」として食べるタイプ」に分けられる。一般的に「里芋」として売られている石川早生(いしかわわせ)や土垂(どだれ)は、「子芋と孫芋を食べる」タイプで、親芋は食用には向いていない。孫芋を煮物などにして食べる。子芋は「子頭」と言われ、食べることはできるが肉質が硬く筋も多いため好みが分かれる。海老芋は「親芋?子芋ともに食べる」タイプに分類される。実際には子芋の方が親芋より大きく、市場に出荷されるのは子芋と孫芋である。海老芋の子芋は里芋と違って肉質が軟らかく煮崩れを起こさない。京都などの料亭では昔から海老芋を海老やマツタケの形に細工して料理が作られる。海老芋の孫芋も、特性は子芋と同じで、里芋の孫芋よりクリーミーな食感を味わうことができる。

えびいもと棒だらの炊いたん
(農林水産省HP「うちの郷土料理」より)

「えびいもと棒だらの炊いたん」は、海老芋と北海道産の棒鱈を一緒に炊き上げてつくる京都府の郷土料理である。棒鱈は、真鱈を干したもので、主に北海道から運ばれてきたものである。かつて朝廷があった京都は日本各地からさまざまな食材が集まった。工夫して美味しく食べる文化が育った。料理の特徴の一つに「あいもん」がある。旬の食材を組み合わせ、双方の良いところを引き立たせ合う料理のことをいう。「えびいもと棒だらの炊いたん」は「であいもん」の代表的な料理で、棒鱈から出るゼラチン質は、海老芋の煮崩れを防ぎ、海老芋から出る灰汁が棒鱈を柔らかくする。

 ぶつ切りにした棒鱈を出汁もしくは米のとぎ汁で柔らかく戻し、食べやすい大きさに切った海老芋を一緒に入れて煮込む。海老芋が柔らかくなったら、具材を取り出し、煮汁をさらに煮詰めて海老芋と棒鱈にかける。香りづけとして千切りにした柚子を散らして食べる。

八頭いづこより刃を入るるとも  飯島晴子
里芋のよく太りたる裏の庭    尾池和夫

海老芋の煮物2種類

海老芋、玉葱、人参の掻き揚げ(左)と海老芋と桜蝦の掻き揚げ(右)

 また、沼津市には「大中寺いも」という在来種がある。芋の名前にもなっている大中寺は正和2(1313)年に開山された。大中寺の北上の中沢田地区の畑に大きな大中寺いもが眠っていて収穫は11月から2月までだという。手作業で土を払い、綺麗にすると縞模様が現れる。多くは1~2kg程度で、3kgになるものもある。一度途絶えていたもので苗を守る生産者があって、現在栽培する方は20人から30人程だという。貴重な作物であり、大中寺の副住職の下山光順さんと農家さんと地元の有志が集まり広報活動と栽培の継承をしている。沼津の一部の小学校で給食として出され、大中寺の境内で収穫体験の受付をしている。(下記URLより受付可能)

 MIYASHIRO HIROMIさんのブログに「大中寺いも」のくわしい紹介と料理の様子がある。さまざまな料理の可能性がよく理解できる。興味深くてさっそく手に入れて試食してみた。親芋は大きくてあっさりした味で、小芋はねっとりとした食感がある。潰して挽肉と玉葱を炒めて混ぜたものをパン粉なしでコロッケ風にオリーブ油で焼いてみた。クリーミーな食感があり美味しかった。

大中寺いも(左)とコロッケ風に焼いてみたもの。

尾池和夫


●参考ウェブサイト

薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/


●下記は、大学外のサイトです。

農林水産省HP「うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/

「大中寺いも」 収穫体験受付連絡先
https://www.instagram.com/daichujipotato/

MIYASHIRO HIROMIさんのブログ「大中寺いもの収穫体験とお寺でお昼ごはん」
https://miyashiro-hiromi.com/town/4741/

静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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