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薬草園歳時記(15)黒文字 2022年3月


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 広辞苑の「くろ‐もじ【黒文字】」と「くろもじ‐の‐あぶら【黒文字の油】」を引いて読みました。

くろ‐もじ【黒文字】
①クスノキ科の落葉低木。高さ2メートル余。樹皮は緑色で黒斑があり、それを文字に見たてたのが名の由来という。雌雄異株。春、葉に先だって淡黄色の花を多数、散形につける。果実は小球形で、黒熟。材は香気を持ち、つま楊枝や箸を製する。
②(クロモジで作るからいう)「つまようじ」の別称。

くろもじ‐の‐あぶら【黒文字の油】
クロモジの葉?小枝を水蒸気蒸留して得る精油。黄色で芳香がある。香水?石鹸?化粧品などの香料に用いる。鉤樟油。

黒文字の花(薬草園提供)

黒文字の葉(薬草園提供)

 クロモジ(黒文字、Lindera umbellata)は、クスノキ科の落葉低木である。枝は楊枝の材料としてよく利用されている。楊枝自体も黒文字と呼ばれる。枝は箸にも使われる。茶席では箸も楊枝も必ず出てくる。黒文字に抗ウイルス作用があり、葉を含めて茶外茶にもなっている。また香料の黒文字油がとれる。

 和名「黒文字」は、若枝の表面に黒い藻類が付着して、黄緑色の地色に黒い斑紋が入ることによる。それを文字に見立てた。中国植物名(漢名)は、大葉釣樟である。「樟」は樟(クスノキ)である。

 「黒文字の花」は初春の植物の季語である。開花期は3月から4月で、葉の展開と同時に小枝の節に淡い黄緑色の花を咲かせる。花は葉腋から出た散形花序をつけ、小さな6弁花を多数開く。雄株の雄花には9個の雄蕊、雌株の雌花には9個の仮雄蕊と雌蕊1個(子房)がある。果実は液果で、光沢のある球形をしている。直径5 - 6 mmで、2 cmほどの果柄がつき、9月から10月頃に黒く熟する。果実の中に種子が1個入っている。種子は偏球形から球形で、長さは5 mm前後、灰褐色で光沢はない。

黒文字の菓子楊枝と爪楊枝

 爪楊枝の代表格が「黒文字」であるが、爪楊枝に黒文字が使われるのは日本だけの風習のようである。根本に黒い皮を少し削ぎ残してあるのが特長で、和菓子に添えられる。千葉県の久留里地域では黒文字の楊枝作りが明治期から副業として行われている。「上総楊枝」が特産品である。
 黒文字の薬効は、保温、芳香性健胃、頭髪の脱毛とフケ防止に役立つと考えられている。 根皮(釣樟根皮)や枝葉(釣樟)を薬用にする。枝葉は布袋に入れ、肩こりや腰痛、関節痛の入浴剤になる。薬酒としてホワイトリカーに漬け込み、1日量で盃1 - 2杯が健胃と食欲増進に役立てられる。頭髪脱毛とフケ防止には、クロモジローションを頭皮によくすり込む用法が知られている。エキスにはインフルエンザ感染予防作用や、コロナウイルス(ヒトコロナウイルスOC43)の増殖を抑える作用が知られている。

養命酒製造の「香の雫」

 養命酒製造株式会社の養命酒にも黒文字が入っている。また養命酒製造ののど飴もある。
 また、「香の雫」というジンもあり、「日本固有の香木クロモジを主役に、光差し込む新緑の森をイメージしたクラフトジン『香の雫』。爽やかなクロモジと、ジュニパーベリーや柑橘の瑞々しい香りに、スパイスの余韻が漂います。風が吹くように、スーッと抜ける若々しい樹木の香りは、心軽やかな時間におすすめです」と宣伝されており、2019年、クラフトジン「香の森」「香の雫」がロンドンで行われた「International Wine & Spirit Competition(IWSC)2019」で銀賞を受賞した。
 黒文字油は、黒文字が芳香精油を含むため採取されるが、乾燥貯蔵中に揮発し、芳香がなくなる。8月から10月に枝葉を採取し、水蒸気蒸留して得られる。黒文字油はテルピネオールやリモネン、シネオール、リナロールなどを含有する。1970年代の時点でほとんど採油されることはなくなったが、かつては日本特産の香料として欧州に輸出されていた。

 東北地方や北越では鳥木と呼ばれる。狩りの獲物を黒文字の枝に刺して神への供物とする。鷹狩で取った獲物を贈る際には黒文字の枝で結ぶことが多く、鳥柴とも呼ばれている。

 ペンション愛宕道(京都市右京区京北地区)を経営し、「樹々の会」という35名ほどのグループで活動している一瀬裕子さんは、黒文字を大切にする。一瀬さんは「山と結婚した」人生だという林業女子である。功績の著しい女性に贈られる「京都あけぼの賞」などを受賞している。近くには黒文字がたくさんあり、春には若葉とともに黄緑の可愛い花をつける。その黒文字でさまざまな商品を考案する。黒文字茶で黒文字を練り込んだ餅をいただく。黒文字粉を練りこんだソフトクリームは、道の駅「ウッディ京北」で人気である。舞茸栽培も手掛けて、農林業に携わる女性たちが各地から視察や研修に来る。「ペンション愛宕道」は開設30年ほどになるが、木の香にあふれる、ほっと落ち着く空間である。

 高知県産の黒文字を使ったティーバッグが人気である。小谷穀粉(高知市)の「土佐の黒文字茶」を私も飲んでいる。2019年のテレビ番組以来、出荷量が7倍超に急増した。高知県工業技術センターが研究を続けている。小谷穀粉では商品化を目指し、高知県工業技術センターや県内3大学と3年をかけて共同開発した。枝と葉の配分や焙煎具合の試行錯誤を繰り返してすっきりした味わいと香りに仕上げた。

くろもじの花連山を忘れ咲く   友岡子郷
黒文字の花に小雨や愛宕道      和夫


尾池 和夫


薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/

下記は、大学外のサイトです。
ペンション愛宕道
http://atagomichi.com/

高知新聞の黒文字茶の記事
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/430638

静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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