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薬草園歳時記(23)柑橘類 2022年11月


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 柑橘類はミカン科ミカン亜科ミカン連のミカン属など数属の総称で、この言葉は日本の造語である。蜜柑と橘が柑橘類の代表である。ミカン科にはミカン属 Citrusの他に、キンカン属(Fortunella)、カラタチ属(Poncirus)、ヘンルーダ属(Ruta)、ゴシュユ属 (Euodia)、キハダ属(Phellodendron)、サンショウ属(Zanthoxyum)などがあり、高木または低木で、草本はまれである。

 静岡県立大学の薬草園にあるミカン科には、ウンシュウミカン(興津早生、青島温州)、カボス、カラタチ、キハダ、キンカン、ゴシュユ、サンショウ、ダイダイ、ナツミカン、ネーブル(森田ネーブル)、ハナユズ、ブンタン(晩白柚)、フクシュウキンカン、ヘンルーダ、マツカゼソウ、レモンがある。これらのうち、「日本薬局方」に収載される生薬、医薬品の原植物は、ウンシュウミカン、キハダ、ゴシュユ、サンショウ、ダイダイ、ナツミカンである。

 ウンシュウミカンとダイダイ、ナツミカンのミカン属は芳香性健胃薬として、胃腸薬に配合される。芳香性健胃薬は芳香または臭気が嗅覚を刺激し、消化器の亢進、消化液の分泌を促進させる効果がある。ウンシュウミカンの成熟した果皮を干したものが生薬の陳皮(チンピ)である。陳皮は七味唐辛子に入っている。先人たちが考えた日本独特な香辛料である。芳香性健胃薬と同じく、食欲不振、消化不良の症状に良いとされる。

 ダイダイ(橙)の成熟した果皮を干したものは生薬の橙皮(トウヒ)になる。橙皮は「日本薬局方」の第一版より引き続き収載されている。ダイダイは正月飾りが一般的によく知られている。果実は枝に付いたまま二年位落ちないため、次の年も代々実がついている様を例えて、ダイダイという名が付いた。ダイダイはサワーオレンジの変種である。一般的にオレンジと呼ばれるものは、スイートオレンジ(アマダイダイ(甘橙))とサワーオレンジである。薬用にはサワーオレンジ、ダイダイの果実を使う。

ダイダイ(左)とナツミカン(右)

 ナツミカンは、山口県が原産地である。ナツミカンの原木は長門市に天然記念物として保護されている。ナツミカンは、自然交雑によって生まれた種である。起源は不明だが、ブンタンやグレープフルーツ、ハッサクと同じ系統と考えられる。果肉に強い酸味があり、クエン酸、酒石酸、ビタミンCの含量が多い。最近は酸度の低い甘夏などの系統の種苗に人気がある。果実は秋には、黄色に熟すが、翌年の4月頃から6月頃に完熟するのを待って収穫する。薬用には、7月頃、果実が未熟な時期に収穫する。乾燥した果実は生薬の枳実(キジツ)になる。漢方では、橙皮(トウヒ)と同じ様に胸腹部のつかえなどに用いられる。

 日本でミカンというと温州蜜柑のことを指す。中国の浙江省温州地区がミカンの名産地であるため、中国原産と思われがちだが、日本が原産地である。静岡県の温州蜜柑は、年間収穫量は10万トンから13万トンで、隔年の差が大きい。主な産地は浜松市の旧三ヶ日町、旧浜松市、旧細江町、旧引佐町、旧浜北市、湖西市、藤枝市の旧藤枝市、旧岡部町、静岡市葵区、静岡市清水区の旧清水市、旧由比町、沼津市、熱海市、伊東市、島田市、牧之原市の旧榛原町などで、静岡県内の至る所に産地がある。普通温州栽培の国内1位である。特に浜松市はみかん栽培が盛んな三ケ日町や細江町、引佐町などと合併したため、収穫量、出荷量ともに自治体として国内トップとなっている。

ウンシュウミカン(青島温州)の名札(左)と青島温州

静岡の大地を見る(8)浜名湖とその周辺 2021年12月20日」で紹介した三ケ日みかんは、静岡県内最大の産地である浜名湖北部の南向き斜面に広がり、中京圏を中心に高いブランド力を持っている。同じく西浦みかんは沼津市の西浦?内浦地区を中心に栽培されている、県東部を代表するブランドみかん産地である。寿太郎温州という糖度の高い品種の栽培が主流になっている。青島温州は静岡市福田ケ谷(新東名 新静岡IC付近)が発祥の地である。果実は大きく、扁平で、長期貯蔵に耐える。「夢頂」「いあんばい」などの銘柄がある。

 柑橘の原種は3000万年前のインド東北部のアッサム地方近辺を発祥地とし、様々な種に分化しながらミャンマー、タイ、中国などへ広まったとされる。日本の文献で最初に柑橘が登場するのは『古事記』『日本書紀』であり、垂仁天皇の命を受け常世の国に遣わされた田道間守が、非時香菓(ときじくのかくのこのみ)の実と枝を持ち帰ったとある。非時香菓とは今の橘であるとの記述があるが、この「橘」はタチバナであるともダイダイであるとも小ミカン(キシュウミカン)であるとも言われている。

 中国からキンカンやコウジ(ウスカワミカン)といった様々な柑橘が伝来したが、当時の柑橘は食用としてよりもむしろ薬用として用いられていた。私が幼少の頃いた高知県の中山間地では「うすかわ」がなっていて、よく食べていた。

 江戸時代初期、徳川家康が駿府城に隠居したとき、紀州から小ミカン(キシュウミカン)が献上され、家康が植えたこの木が静岡県のみかんの起源とされている。静岡のみかんの起源には富士市(旧富士川町)の農夫が外国から移植した経緯もあり、歴史も古く、家康が起源のみかんとは品種も異なるという。

バンペイユ(晩白柚)の花(左)と果実 薬草園より

ブンタン(晩白柚)の名札と収穫した晩白柚

 中でもバンペイユ(晩白柚)が大きくて目立っている。ブンタン(ザボン)の一品種で、呼び名は、晩生(晩)、果肉の白っぽさ(白)、中国語で丸い柑橘を意味する(柚)に由来する。そもそもザボン類は柑橘類の中で巨大で皮が厚いのが特徴で、晩白柚はとりわけその特徴が著しい。世界最大の柑橘類とされており、直径25cmになる。薬草園では、大きいもので一つの果実が1.5kgから3㎏位になる。大きな果実であるから、幹や枝のトゲで果実が傷んでしまうこともあり、自身の果実の重さで枝や時に主幹が折れることもあるため、支柱などで支えて養生する。しかし、台風などの強風の影響で完熟する前に果実が落下してしまうことがある。原産地はマレー半島で、日本では熊本県八代市、氷川町の名産である。2015年、熊本県立八代農業高等学校園芸科学科で収穫された晩白柚が世界で最も重量が重いザボン類としてギネス世界記録に認定された。現在の記録は直径29cm、重量4859.7gである。日本での2010年の収穫量は971トンであり、その97%が熊本県である。

薬草園で収穫した晩白柚と白い部分のシロップ煮(右)


土佐文旦の果実、断面、食べ方

 私は高知の出身なので、土佐文旦が高知から送られてくる。土佐文旦の原木は高知県農事試験場園芸部(現在の農業技術センター果樹試験場)の玄関にあった。高知県で栽培される土佐文旦はこの樹を母樹として増殖したものである。原木は枯死したが、樹齢30年、幹の周囲65cm、樹高3.4mという記録が残る。外皮は比較的薄く、種がたくさん入っている。果肉にはさっぱりした酸味と甘みがある。すっきりした味が楽しめる春の産物で、2月が出荷の最盛期である。

ブッシュカンの花(左)と果実 薬草園提供

 ブッシュカン(仏手柑)はミカン科ミカン属の常緑低木で、高温多湿な気候でよく育つ。寒さに弱いため、露地で越冬するには温暖な地域に限られる。果皮が非常に厚く、果肉がほとんどない。果実の先端が尖り、皮が分かれて手の指を合わせている様な形をしている。「スダチ」「カボス」「ユズ」「レモン」と同じ香酸柑橘類の一種である。シトロンの変種。ブシュカンともいう。高知県四万十川流域で栽培されているブッシュカンは、同じ香酸柑橘類の「餅柚」と呼ばれる品種であり、緑色で球状の果実である。これを「丸仏手柑」(マルブッシュカン)と呼び、「手仏手柑」(テブッシュカン)と区別するが、シトロンも「丸仏手柑」(マルブッシュカン)と呼ぶ。よって、ブッシュカンを「手仏手柑」(テブッシュカン)、シトロンまたは「餅柚」を「丸仏手柑」(マルブッシュカン)と区別するのがよいであろう。

 ブッシュカンは主に観賞用で茶の湯の席の生け花に用いられることもある。正月飾りにする地域もある。食用にもするが身が少ないので砂糖漬けなどの菓子にしたり、乾燥させたりして食べる。果実や花は漢方薬にも利用される。

罪深げにも仏手柑の指の先    後藤比奈夫
指の数決らぬことも仏手柑    大橋敦子
二つ切りせし文旦にウィスキー  右城暮石
武家屋敷より真清水へ朱欒垂れ  飯田龍太

 今回も薬草園の山本羊一さんから多くの重要なご指導をいただいた。記して謝意を表します。
尾池和夫


●参考ウェブサイト

薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/


●下記は、大学外のサイトです。

青島温州:『農業技術事典 NAROPEDIA』(編著:農研機構、発行:農文協)
http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=10023

晩白柚:旬の果物百科
https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/fruit/banpeiyu.htm

土佐文旦:白木果樹園
https://buntan.com/tosabuntan/content.html

静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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